締め切りとオムライスのあいだで
限界漫画家の後輩(冨里奈央さん)が、担当編集に電話しながらオムライスを描いてる冒頭シーン。
もうその時点で、「ああ、この作品らしいな」と笑ってしまった。
追い詰められてるのに、どこか楽しそうで、ギリギリの状況を“ネタ”に変えていくような軽やかさ。
それを横目に見てる「プロの無職」の先輩(岩本蓮加さん)の表情が、なんともいえない優しさだった。
叱るでもなく、励ますでもなく、ただ“見ている”。
その距離感が、この二人の関係性をすべて物語ってる気がした。
ルーレットがくれた自由
「漫画家は選択の連続」という話から、まさかルーレットで旅が決まるとは思わなかった。
金沢行きの新幹線を“始発で”っていうテンションも最高。
現実逃避じゃなくて、ちゃんと“生きるための逃避”をしている感じがする。
自由って、勢いで掴みに行くものなんだな、ってちょっと勇気をもらった。
ルーレットを回すその手の軽さに、どこか真剣な祈りが込められてた気がする。
金沢のオムライスと、やさしい記憶
洋食屋で食べたオムライスを「ママのオムライスと同じ味がする」と言う後輩。
その一言で、一気に空気がやわらかくなった。
旅って、結局“心の整理”をするためのものなんだなと思う。
先輩の穏やかな笑顔も、まるで“よかったね”って言葉を飲み込んでるみたいで。
この二人の旅は、現実から逃げてるようで、ちゃんと自分を見つめ直す旅なんだと感じた。
日常の中の小さなエスケープ
ルーレットで決まる行き先、オムライス、夜行バス、締め切り…。
全部バラバラなのに、二人が一緒だと不思議と物語になる。
“何をするか”より“誰といるか”がすべてなんだと思わせてくれる。
見終わったあと、なんでもない日常がちょっと愛しくなるような、そんな余韻が残った。
“逃げる”って、悪いことじゃない。
むしろ、それがこの二人にとっての生き方そのものなんだと思う。


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